俳優

「今」を濃く、強く、美しく生きる。

世界の「音」を追うライフワークを10年以上続けてきた俳優・山口智子。26か国、250を超える世界の音楽を収録したライブラリ『LISTEN.』が2022年8月に発売された。「音楽は地球が一つになる鍵、そして地球を色鮮やかにし、私たちの幸せを彩ってくれる存在でもあります」。そう語る山口氏に、『LISTEN.』プロジェクトの意義を尋ねるなかで見えてきたのは、彼女の「生き方」そのものだった。

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『LISTEN.』は、最高にかっこいい「今」を集めた音のタイムカプセル。 未来の地球と宇宙に誇れる一冊。

ー山口さんのライフワークである『LISTEN.』。「世界の音」を追いかける
プロジェクトがスタートしたきっかけを教えてください。

 「1000年後の未来に自慢したい、地球の美しい『今』を収めたライブラリを作りたい」という想いから、『LISTEN.』はスタートしました。音は風や水のように、壁や境も超えて果敢に進んで行くから素晴らしい。人間は古より旅をして行き交い、メロディーやリズムを伝え、新しい出会いの中から美しい文化を生んできました。音楽は、人々が憧れ合い、融合した証。それぞれの地に育まれた音楽は、地球人が心を一つにする鍵を握っていると思います。音楽は地球を色鮮やかに彩り、幸せな明日へと導く、生きるパワーの源です。

ー『LISTEN.』プロジェクトを通して、数多くの国を訪れ、音を追いかけてこられたとのことですが、訪れる国や収録する音楽はどのように決められたのですか?

 「猛烈に惹かれる!」と、心が揺さぶられる感動を大切に、イチから自分たちで探りながら映像作品を作ってきました。既存の情報から頭で知ったつもりになるのではなく、初めて異国の地に立ち、聞こえてくる音楽に耳を傾けて、”感じる“ことから始めようと思いました。心から”好き“と思えるものを追いかけて出演交渉に臨み、素敵な音楽が最高に輝くための撮影場所探しに奔走する日々は、素晴らしい時間でした。今いちばん輝いている地球の宝を収めた、映像ラブラリー「LISTEN.」は、未来の地球と宇宙に誇れるタイムカプセルです。

ー音を追いかける旅を通して、感じられたことをお聞かせください。

 地球を美しく彩る、唯一無二の個性で花開く音楽は、様々な土地の風土に育まれます。特に、民族が逆境の歴史の中から生み出してきた、力強い音楽の美しさに心打たれます。しかしその美しさは、いかに脆いものであるかも痛感しています。時代や経済の波に飲み込まれ、明日や明後日の早急な答えばかりを求めていると、時間をかけて育んでゆくべき美しさは消滅の危機。今私たちにできることは、まず「知る」ことではないでしょうか。知ろうとしないことは、一種の罪だと思います。様々な文化の美しさを「知る」ことで、知らなかった国の人々が大好きになる。それは、知らないまま消え去ってしまったかもしれない素敵なものを守る、第一歩ではないでしょうか。せっかくこの地球に生まれたのですから、もっと感動に出会っていかないと、もったいない!

ー「知りたい」という想いが大きな原動力になっていたのですね。

 様々な文化を知れば知るほど、世界にはまだまだ知らない素敵なものが溢れていることを実感します。思考の枠にがんじがらめになるのではなくて、心の扉を開き世界に耳を傾けて、私たちを取り巻く感動を『感じる』心を取り戻したい。自分自身のそんな願いから『LISTEN.』が生まれました。10年かけて集めた映像や音は、これから色々な形で発信を続けていきたいと思っています。まずはコロナの逆境を生かして、写真や文章をまとめた書籍としての「LISTEN.」を、皆さんに楽しんでいただけたら嬉しいです。

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「今この瞬間」の幸せを大切にし、全力で生きる。 それが10年後、20年後、遥かな未来の幸せに繋がると信じています。

ー『LISTEN.』プロジェクトに生き生きと取り組まれている姿や日々の活動からも、山口さんは「人生を全力で楽しんでいる」ということが凄く伝わってきます。日々を活力的に過ごす秘訣を教えてください。

 何よりも「今この瞬間」を大切にすること、そして、命あることの「幸せ」を感じて本気で楽しむことです。今、息をしているこの瞬間も、愛おしくてたまらない。一つ幸せを感じはじめたら、そこからまた次の幸せがどんどん生まれてくる。幸せの連鎖は、雪だるま式にどんどん膨らんでいきますよ。私たちの人生の最後の日まで、この地球に滞在できる時間は限られているわけですから、今ここに在る喜びをとことん謳歌しないと、本当にもったいない!

ー何気ない日常からも幸せを見つける力というのは、今のコロナの時代だからこそ必要とされる力でもありますよね。

 未来は、「今」どうあるかの先に続くものです。たとえ逆境や障壁が立ちはだかろうと、そこから学び、今までの歩み方を省みながら、更に良い未来へと続く道を、私たち自身が模索して築いていかなくては! もしここでただへこたれてギブアップしてしまったら、人間は所詮、淘汰されるべき利己的な存在として、地球から消え去る定めです。思考の大転換の時代であり、私たち人間の生き方が試さているのだと思います。

 世界を旅して学んだことは、自分達の魂のルーツに繋がる歌や踊りを持つ民衆の強さです。差別や迫害の苦境の中で、心を打つ音楽や踊りや文化を生み出しながら、生きぬくための強烈なパワーを育んできました。本当に強いものは、美しく、しなやかに、時代の波を超えて、未来へと手渡されてゆく永遠の命を持ちます。今こそ私たちも、生きるパワーに満ちた素敵なものを生み出して、進んでゆかなくてはと思います。

ー最後に、山口さん自身の今後の目標についてお聞かせください

 もちろん「今」を濃く幸せに生きること。この瞬間を、強く、美しく、楽しく燃焼させることが、10年後、20年後、遥かな未来の幸せに繋がると信じています。私たちはコロナ禍という変革の時代を通して、地球という大きな命、私たちを取り巻く自然と、「共に生きる」ことの大切さを学んだはずです。人間だけの都合で自然の摂理を捻じ曲げて、貴重な地球の資源を膨大に消費する身勝手な生き方から、今こそ抜け出す時です。

 地球の、そして宇宙の一員であることを心に刻み直して、「共に生きていく」という意識を持つことが問われている。地球人が、宇宙の中でちゃんとした大人として、責任を果たせる生命体かどうか、テストされているのかもしれませんね。

 地球人として皆が心を一つにするために、日々の幸せや命の声に「耳を傾ける」こと。第一歩は、そこから始まるのだと思います。

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■告知情報

発⾏:⽣きのびるブックス
2022年8⽉26⽇(⾦)
全国の書店・オンライン書店にて発売中
音楽家たちによるオリジナル演奏シーンを捉えた動画QRコードも多数収録。

俳優

TOMOKO YAMAGUCHI

俳優。1964年生まれ。1988年、NHK連続テレビ小説「純ちゃんの応援歌」にてデビュー。「ダブルキッチン」、「スウィート・ホーム」、「29歳のクリスマス」、「王様のレストラン」、「ロングバケーション」、「ハロー張りネズミ、」「なつぞら」、「監察医 朝顔」、「正義の天秤」など、多数のドラマ・映画に出演。著書に『手紙の行方』、『反省文ハワイ』(ロッキング・オン)、『名も知らぬ遠き島より』(筑摩書房)、『掛けたくなる軸』(朝日新聞出版)など。

TEXT BY Reina Hirai PHOTOGRAPHS BY YUJI TAKEUCHI(BALLPARK) STYLING BY Masataka Hattori(Hattori Pro) HAIR BY Dai Michishita MAKE BY Kazuko Hayasaka

※本稿は2022年11月掲載時点の情報となります。

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