2023-05-21

ソニーが生む進化と革新

2022年度上半期、ソニーグループは売上高・営業利益とも過去最高を更新した。ノウハウを結集して新たにオープンした映像スタジオ「清澄白河BASE」の滑り出しも好調だ。これまで、ウォークマン、アイボなど、世の中に新たな風を送り出してきたソニー。90年代からはコンテンツ分野にも事業を拡げ、今後も新たな分野への革新的な挑戦に期待が集まっている。ここでは、グループの成長を支える進化と革新のDNAの源泉を解き明かしてみたいと思う。

常設のバーチャルスタジオを展開

 2022年2月1日、ソニーは制作スタジオ「清澄白河BASE」を東京都江東区にオープンした。ソニーがこれまで培ったさまざまな技術を結集した常設のバーチャルスタジオだ。異なる分野が協力し、先端技術とクリエイティビティを結集して創り上げている。清澄白河BASEが提供するのは「バーチャルスタジオ」「ボリュメトリックキャプチャスタジオ」という、コンセプトが異なる2つの撮影スペース。どちらもこれまでにない撮影空間だ。
 バーチャルスタジオは、LEDウォール型のバーチャルプロダクション。横15.2m × 高さ5.4mの大型高画質ディスプレイを設置し、3DCGを中心としたバーチャル背景の投影が可能だ。被写体の動きに合わせてカメラを動かすと背景のCGも合わせて動くのだという。室内にいながら、ロケ地で実際に撮影したかのようなリアリティーのある映像制作が可能で、映像制作のワークフローの効率化も期待できる。

事業部の垣根を超えた協業

 ボリュメトリックキャプチャスタジオは撮影画像から新たな映像を作り出す空間だ。直径6mの円形スタジオに100台以上のカメラを設置。撮影した人物や物体を、3次元のデジタルデータに変換し、任意の方向から見た3D映像へと再現できる。ソニーでは、これまで本社ビル内にボリュメトリックキャプチャ専用のスタジオを設置するなど、グループ横断で関連技術の研究開発に取り組んできた。今回の常設スタジオの開設はその集大成だ。新スタジオは好評を博しており、既に映画やミュージックビデオ、スポーツプロモーション映像のほか仮想空間コンテンツの作成にも使用されている。

個を伸ばし、個を活かす

 今回の事業はグループ各社の強みを生かす新規事業探索活動(コーポレートプロジェクト)の一環でもある。グループ内の横断的なプロジェクトは、見方によっては「メンバー同士のつながりの弱さ」を危惧する声もあるかもしれない。しかし、異なる個や集団が集まり、ここまでハイレベルなものを創り上げることができた理由の一つは、ソニーの人材理念にある。もともと、ソニーの企業文化は、「都度、お互いに選び合い、応え合う」。新たな価値を提供し続けてきたソニーにとり、人材は大きな財産だ。異なる立場のメンバーが、協業しやすい土壌を持つのがソニーグループなのだ。2021年には、新たな経営機構体制に合わせグループの人材理念を再定義。人事戦略のフレームワークを「個を求む」「個を伸ばす」「個を活かす」と定義した。

人が創る進化と革新

 仕事は「組織」でなく「人」がするもの。多様な“個”を主体とするソニーの理念・戦略は仕事への求心力が働く仕組みと言えるだろう。ソニーグループは、2021年に過去最高の業績・利益を達成し、2022年に入ってもその勢いは衰えていない。CEOは公式サイトのメッセージの中で、経営のベースを「感動」と「人」を軸にすると宣言。今後の方向性として、現状の6つの各事業に力を入れつつ、今後の成長分野になりうる2つの感動空間、メタバースとモビリティにも挑戦するという。メッセージはグループの更なる進化と革新を予感させる。たとえ事業内容が変化しても、人が人へとモノを創り届ける限り、企業は続いていくのだ。

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