2024-5-10
人口世界一となったインド、その経済の行方。
2023年、インドは中国を抜き人口世界一となった。 人口増加とともに注目されてきたのが、経済成長の行方である。
人口世界一の座へ、GDPの数字も堅調に推移
国連経済社会局の推計によると、2023年4月、インドの総人口は14億2,577万人を超え、中国を抜き世界最大の人口大国となった。従来から総人口の逆転は2030年前後と見られていたが、予想外の前倒しとなった結果である。
国際通貨基金(IMF)の発表によると、インドのGDPは2021年にイギリスを抜き世界第5位に躍進したという。今後はアメリカ、中国に継ぐ世界第3位の経済大国になると予想されている。経済成長は2020年に40年ぶりとなるマイナス成長となったが、2021年には9%を超えるV字回復を果たし、2022年も7%以上の堅調な成長を維持。貿易に関しては輸出が前年比14%以上の伸びを示す一方、輸入も26%近く増加している。結果として貿易収支は2,700憶ドル近い赤字となり、赤字幅は前年比で1.5倍拡大していることも注視すべき点である。
IT重視の政策が貿易赤字の一因に
インドは第二次世界大戦後、IT関連技術者の育成に力を入れてきた。国内各地に設置した国立大学は世界でも難易度が高い教育機関として知られ、世界のIT技術者の1割はインド出身者が占めていると言われている。IT大国とも評されるインドは、これまでグーグルCEOのサンダー・ピチャイ氏、サン・マイクロシステムズ共同創業者のヴィノド・コスラ氏など、大手IT企業の経営陣を務めた人材も数多く輩出してきた。
しかしインドのIT産業が成長した一方、世界に遅れをとっていると言われているのが製造業の育成である。高い経済成長を維持しつつも、産業別のGDPでは製造業は15%ほどと高くない。例えば日本の場合、GDPの約20%を製造業が占めており、インドはITサービス輸出国として台頭する一方で国内需要の多くを輸入品に頼ってきた背景がある。貿易赤字はその弊害としての表れと言えるだろう。
国内産業の育成へとシフト
2014年、首相に就任したナレンドラ・モディ氏は、製造業振興策「メーク・イン・インディア」を掲げ、製造業の振興を宣言した。メーク・イン・インディアは、経済成長の中心をサービス業から製造業へと軸足を移す政策である。海外からの投資促進や製造業の発展を目的とし、製造業の全産業に占める割合を15%から25%へと上昇させるというものだ。新たな雇用の創出や貿易赤字の縮小、輸出の拡大を目指しているのである。
そんなモディ政権は2019年、総選挙で圧倒的な勝利を収め2期目へと突入。公約として掲げたのが、「2030年までに世界第3位の経済大国になる」というものだった。メーク・イン・インディアと並行し、具体的な政策として「税制の改善」、「インフラへの100兆ルピーの投資」、「農業・農村支援」を挙げている。
雇用とインフレが懸念材料
首相就任後からモディ氏は高い支持率を維持してきたが、メーク・イン・インディアの進捗は芳しくなく、課題は今も山積みだ。その大きな懸念材料の一つとなっているのが、雇用の創出とインフレ対策である。インドの人口増加は今後30年近く続くとみられており、2023年の時点で年齢の中央値を占める「中位年齢」が28歳と圧倒的に若い。毎年1,000万人前後の人口が増える中、インドの労働人口の約9割が非正規で低生産性・低賃金の状況にあることも念頭に置くべきだろう。実際に2019年まで5%台を維持していた失業率は、2020年には8%台へ上昇。その後も7%台を推移しているのが実状だ。
就業機会が減る一方で、物価は上昇傾向にある。有力紙「インディア・トゥデイ」が2024年2月に実施した世論調査では、土地所有農家の6割が前年に比べインフレに危機感を覚えていると回答した。貧困層から中間層への支援が喫緊の課題であることは言うまでもない事実だろう。
産業の成長にも明るい兆し、今後は人口増の恩恵も
現在の年齢別人口構成を見ると、インドは15歳から64歳までの生産年齢人口が最も多いことがわかる。労働の要となる年代の増加は、国全体の生産力を上げることにも繋がる。つまり人口の3分の2、約10憶人弱が前述の年齢に当てはまることとなり、世界最大の人口は国内消費の増加という恩恵を与えてくれるのだ。
そんな中、2022年のGDP上昇率は8%近くを記録。政府の最終支出や輸出が伸び悩む一方、国内消費は6%の上昇を見せインドの経済成長を支えている。
そのほかインド国内の製造業にも明るい話題が増えた。2022年・2023年とインドの新車の販売台数は前年比で大幅に増加。日本を抜き中国、アメリカに次いで世界第3位となっている。同じく製造業ではiPhoneの生産が本格化し、政府は南インドへの大規模工場建設を発表。GDP成長率が7.2%と堅調な伸びを見せた2022年には、海外からの直接投資も前年比2%と堅調な伸びを見せた。シンガポール、オランダなど従来からの投資主要国が、投資額を3割前後増やすなど産業の成長を後押しする状況も窺える。