2024-11-30

半導体業界を切り拓く、エヌビディアの公算。

2024年6月、米半導体大手エヌビディアがマイクロソフトとアップルを抜き時価総額で一時世界1位となり、3兆3,400億ドル(約527兆円)に達した。そうした事実からもわかる通り、半導体業界がこれまでにないほどの活況を呈している。成長の追い風となった要因の一つとされるのが、生成AI技術の進化だろう。基幹技術GPUの供給で圧倒的シェアを誇り、半導体業界の新たな道を切り拓いてきたエヌビディアの軌跡を辿った。

エヌビディア創業者/CEOであるジェンスン フアン(Jensen Huang)氏

2024年は過去最高の売上を記録

  エヌビディアは、2024年通年の業績で過去最高となる609億ドルの売上高を達成した。2024年会計年度の第4四半期売上高も過去最高の221憶ドルを記録。第3四半期から20%以上の増、前年同期から260%を超える増加となっている。
 業績向上のけん引役となったのは、データセンターの大幅な売り上げ増だと言われている。データセンターの第4四半期売上高は184億ドルで、これは前四半期から30%近くの増額、前年同期から400%以上もの増加を実現していることになる。通年の売上高も200%以上増加しており、いずれの数字も過去最高を記録した。好調を続ける実績を受け株価は高騰し続け、2024年6月時点での時価総額は3兆3,400億ドル、4,000憶ドルだった2022年の8倍を超える数字に達している。

売上の背景、生成AIの躍進

 データセンター販売増の背景にあるのは、生成AIの躍進だ。エヌビディアが製造する半導体はChat GPTを皮切りに、2024年度にはGoogle と協業によるデータセンターとPCのAIプラットフォーム全体の最適化、Amazon Web Services との戦略的協業、医療用画像サービスでのAI活用など、幅広い活用をスタートさせている。そうした生成AIの開発やデータセンターの進化を支えるのが、エヌビディアの開発するGPU(Graphics Processing Unit:画像処理装置)である。

創業ビジョンは「市場に3Dグラフィックスを」

  エヌビディアは1993年、ゲームとマルチメディア市場に3Dグラフィックスをもたらすというビジョンの元に創業された。1999年には動画や画像表示向上の半導体GPUを開発し、グラフィックのみならず暗号資産の採掘作業(マイニング)や自動運転技術への活用など、高度な演算処理の担い手として注目を浴びるようになった。
 近年ではデータセンターや生成AI開発での需要が拡大の一途を辿っており、半導体だけでなく開発者向けのプログラミング言語CUDA、産業のデジタル化と生成物理AI開発プラットフォームNVIDIA Omniverseの提供など、ハード・ソフトの両面でデジタル社会の進化を支えている。
 また、自社ではGPUの設計開発に注力し、製造は世界最大の台湾企業に委託することで演算能力を高めてきたことでも知られる。この戦略が結果的にAI分野の急成長を支えることとなり、業績アップにもつながっているのかもしれない。そして2024年現在、市場におけるエヌビディアのGPUシェアは9割を超えると言われている。

世界で急拡大する生成AI市場

 総務省の2024年版情報通信白書によると、日本国内で生成AI(人工知能)を利用している個人は9%を超え、約10人に1人が利用している計算になる。海外においてはより利用者数が増加傾向にあり、欧州では3割から4割、中国やアメリカでは5割前後の個人ユーザーが生成AIを利用しているという。アメリカのボストン・コンサルティング・グループの分析によると、世界の生成AIの市場は2024年に350億ドルに達し、2026年にはその2倍以上となる880億ドル、2027年には1,210億ドルまで膨れ上がると予想されている。

AI・データセンターへ注力する

 エヌビディアの2024年通期の業績は600億ドルを超えたが、過去の決算に目を移すと、2015年度の売上高は約50億円となっている。通期の売上はこの10年間で12倍以上増加しており、年次報告書を見ると収益の移り変わりが見て取れる。例えば収益の柱は2015年度、「PCゲーミング、バーチャルリアリティ、ディープラーニング、自律走行自動車」だったが、2024年には「AI関連の開発やデータセンター」へと軸足を移していることがわかる。
 創業者/CEOであるジェンスン フアン(Jensen Huang)氏は2024年の業績報告書の中で、「アクセラレーテッド コンピューティングと生成A Iは重要な段階に来ている」とコメント。今後は新製品サイクルが始まり、半導体業界の発展に前例のないイノベーションをもたらすと述べている。
 そんな中、2024年にエヌビディアは新たなAI向けチップ「Blackwell」を発表した。2025年に「Blackwell Ultra」、2026年には「Rubin」「Rubin Ultra」と次々と次世代チップを市場に投入する予定だという。

2024年度も好調なスタート

 2024年5月、エヌビディアは2025年会計年度の第1四半期の業績を発表した。四半期売上高は過去最高の260億ドルで、前年同期から260%以上増加。データセンターの四半期売上も過去最高の226億ドルで、前年同期から400%以上増加と幸先の良いスタートとなっている。  業績報告書の中で、CEOのジェンスン フアン氏は企業や各国政府との連携に触れながら「次の産業革命はすでに始まっている。エヌビディアは、次の成長の準備ができている」と述べた。CPU市場で高いシェアを誇るエヌビディアの好調はまだまだ続きそうだ。今後の半導体業界、AI業界の動向にも引き続き注目していきたい。

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