2025-5-31

不透明な先行きと、グローバル投資市場の拡大。

トランプショックをはじめ、紛争や経済対立、気候変動など、いつの時代も不安要素が見え隠れする世界情勢。不透明な経済状況が続く中、より安全な資産運用を実現するためには何が必要なのだろうか。近年注目を集める投資事例を参考にしながら、先行きの見えない市場の未来予想図を見つめてみたい。

好調が続く株式市場

 今から遡ること約5年前、新型コロナウイルス感染症のパンデミックにより世界経済が深刻な影響を受けたことは記憶に新しい。日本国内でも操業停止に追い込まれる企業もみられるなど、当時のサプライチェーンは混乱し、多くの株価は大幅に下落した。その後、急激な成長を見せることとなったのが、特にアメリカのハイテク企業が牽引する形で上昇を続けた米国市場だった。当時は日本株も同様に状況が好転し、2004年2月には日経平均株価が33年ぶりの高値を更新。そして2025年1月には、ニューヨーク株式市場で主要500社の株価で算出する「S&P500」の株価指数が最高値を更新するなど、市場は堅調に推移を続けてきたのだった。

投資環境の変化の中で

 そんな中、アメリカ大統領選で再任を果たしたドナルド・トランプは、次々と貿易国に対する強硬な関税政策を打ち出し、世界の投資環境に新たな混乱を招く事態となっている。
 それまでアメリカ長期国債の価格は上昇を続けており、安全資産としての需要は増加の一途を辿っていたようにも思えたが、先行きの見えない不透明な市場へと逆戻りしたことで、多くの不安材料が付き纏っている現状と言わざるを得ない。
 とはいえ、既存企業の株や債券のほか、伸び盛りのAI開発企業やゴールド投資、デジタル技術を用いた暗号資産など、投資需要が減少しているわけではないことも事実だ。国債投資においても、環境・社会・ガバナンスに配慮した企業に投資する「ESG投資」が注目を集めたことも近年では話題を集め、国内においてはNISA制度に対する課税優遇期間制限の撤廃など、政府も後押しを進めてきた。先行きが見えなくなったコロナ禍を契機に投資を始めた、あるいは関心を持つようになったという人も少なくないだろう。

世界情勢と投資のリスク管理

 投資市場が様々に変動を続ける中、世界情勢の先行きも大きな関心を集める。近年ではウクライナや中東など各地の紛争をはじめ、国家間の対立や気候変動など、今なお大きな火種となっている事例は快挙にいとまがない。いずれの国際的課題も解決までには時間を要するものだろうが、こうした世界情勢は政治・経済の不安定化、資源価格の変動の一因となり、投資にも様々なリスクファクターとなり得ることも確かだ。
 では、多くの資産家や投資家たちが資産を守るために、どのようなアクションを起こしているのだろうか。まずその一例と言えるのが、ポートフォリオの作成や見直しによる分散投資である。社会情勢や経済動向に関する情報を収集し、あらゆるリスクを管理し、より安定性の高い投資先を組み入れることが必要となるためだ。古くから分散投資の手段として注目を集めているゴールド投資もその一例と言えるだろう。

見直される「金」の価値

 2020年に1グラムあたり6,000円台だった金の国内取引価格は値上がりを続け、2024年8月には1万円台を突破。その後も価格は上昇を続け、2025年には1万5,000円を超過した。トランプショック以降はその上げ幅をさらに広げており、古くから世界各国で認められてきた普遍的な価値を改めて証明している。熱伝導や耐腐食性など優れた素材特性を持ち、人工的に作り出すこともできない金という物質。希少金属として、毎年1,000トン以上が電子機器などからリサイクルされていることからも、そのニーズの高さがうかがえる。
 2014年から約10年の統計を見ると、金の年間供給量は4,500トンから5,000トンに及び、供給量の約半数が宝飾品加工で消費されるほか、地金やコイン、投資向けとしても活用され、1割弱はエレクトロニクスや工業用など、テクノロジー分野でも使用されていることがわかる。金は不動産や株券、現金のように、インフレや税金の高騰など社会情勢の変化を受けにくいことも特徴の一つだ。そして工業用品・宝飾品としての需要が常にあるため、価値がゼロになることは考えづらいものでもある。その安定性のため、金は「有事の金」とも称され、世界情勢の変化にも強い投資対象とされてきた。実際、2008年のリーマンショックや2020年のコロナパンデミック直後においても、株と比べ、価格回復が早いことが実証されている。特に低金利政策が続く環境下では、債券の代替投資策としても注目されてきたのだった。

長期的投資と短期的投資

 しかしゴールド投資は安定性がある一方、配当や利息は得られない特性もあり、長期保有に適した「守り」タイプの資産運用とも言い換えられるだろう。もちろん先行きが不透明な状況においては、長期的に安定資産を確保しておくことで周囲の変化に影響されない手立ても必要なのかもしれない。その意味では公的支援を受けるインフラへの長期プロジェクトや、気候変動などサステナビリティ投資に関する取り組みなども当てはまるだろう。
 また近年、投資家からも注目を集めているのが「デジタル金融」や「人工知能(AI)」といったIT技術だ。デジタル金融には仮想通貨などの暗号資産だけでなく、個人金融やキャッシュフローなど金融資産全体の保有方法変革も含まれる。ChatGPTの例にみられるように、こうしたデジタル技術は、素早く劇的に社会を変革する可能性を秘めていることでも知られる。短期的な投資先としてポートフォリオに組み入れることも一つの手段なのかもしれない。

投資へのリテラシーを養う

 「金」と「デジタル」は一見相反するようにも見えるが、この2つには国や地域にとらわれない「ボーダレス」という共通項がある。先行き不透明な現代では、長期的・短期的両方の視点で投資を行う必要があると言われており、国内の市況だけに捉われない世界的な視野を持つことも重要だと言えるだろう。より多角的な視野で利益の機会を捉え、自身の資産を守り生き抜くためにも、各々がグローバルな視点を忘れずに厳格な投資へのリテラシーを養っていきたいものだ。

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