2025-5-31

Eコマース市場を牽引する
フランス発のSaaSプラットフォーム。

インターネット上で商品やサービスの売買を行うEコマース(EC)市場が好調に推移している。市場規模が成長を続ける中、注目を集めるのがSaaSプラットフォームを活用したオンラインサービスだ。中でもフランス発のサービス「Mirakl(ミラクル)」は近年日本にも進出し、各分野でサービスの拡大を進める。独自の市場調査を背景にBtoB分野のシェア拡大を目論むフランス発のSaaSプラットフォームを見つめた。

世界で活況を呈するEC

 2023年に経済産業省が行った「電子商取引に関する市場調査」によると、国内におけるBtoC-EC(消費者向け電子商取引)の市場規模は約25兆円に及ぶ。前年の約23兆円に比べ9%以上の堅調な伸びとなった。成長をけん引した一つの要因となっているのは、旅行や飲食などのサービス分野の成長だろう。そして、さらに大きな伸びを示したのがBtoB-EC(企業間電子商取引)である。約465兆円と前年の420兆円に比べ10%を超える成長を示したEC分野では、BtoC、BtoBともEC化率は前年を上回っており、国内で商取引の電子化が進みつつあることがデータからも窺い知ることができる。
 報告書の中では、日本・米国・中国の3カ国間における越境ECについても言及されており、購入額は日本の4,000億円余りに対し、米国が約2兆5,000億円、中国が約5兆4,000億円となった。海外において商取引のEC化はより顕著に浸透しつつあると言えるだろう。

注目を集めるSaaSプラットフォーム

 こうしたE Cの普及を背景にSaaS(Software as a Service)プラットフォームの活用が注目されている。SaaSとは
ネットワークを経由して、ソフトウェアをクラウドサービスとして利用できる仕組みを指すものだ。SaaSプラットフォームを通じて、企業は業務に必要な機能を手軽に導入することができる。ソフトの開発が不要なため、導入から保守・管理まで手間やコストを軽減できることがSaaSの大きなメリットと考えられるだろう。ビジネス用のチャットシステムや、グループウェア、プロジェクトやタスク管理、会計など、その活用シーンは実に幅広い。SaaS「Microsoft 365」や「Google Workspace」、「Zoom」といったサービスもSaaSの一種だ。そんな活況を呈すEC関連事業において、近年ではフランス発のSaaSプラットフォーム「Mirakl(ミラクル)」が注目を集めている。

ECサイトの新たな選択肢を

 Miraklは2012年にフランスで設立されたマーケットプレイス構築向けSaaSプラットフォームを提供する気鋭の企業だ。短期間で企業価値を高め、フランス政府認定の成長ユニコーン企業「フレンチテックNext40」にも選ばれている。BtoCおよびBtoB向けのサイト構築に対応しており、既に世界450社以上の企業がサービスを導入。家電量販店のBest Buy Canada、百貨店のMacy'sなど大手企業の顧客も多い。
 一般的にE Cサイトは自社運営タイプのサイトと、Amazonなどに代表されるショッピングモールタイプの大手サイトに分類される。そんな中、Miraklが提供するシステムでは企業が独自のマーケットプレイスを構築することができ、自社ブランドに加え外部企業の商品販売も可能となるのが特徴だ。いわば自社サイトと大手サイトの利点を併せ持つ第3のサービスとも言えるだろう。ECサイト構築時の選択肢が増えることで、EC市場のさらなる拡大も期待できるということだ。

日本にも拠点を設立

 2022年、Miraklは日本企業と連携し、日本法人「Mirakl株式会社」を設立した。その狙いはどこにあるのだろうか。その一つとして考えられるのが、BtoC市場の取り込みだろう。日本国内におけるBtoCのEC市場規模は2020年のコロナ禍以降も旅行や飲食を含むサービス系分野が2割から3割ほど市場規模を伸ばすなど、着実に成長を続けている。また、2023年度にMiraklが発表したグローバル消費者調査によると、日本の消費者の4割以上がE Cショップのマーケットプレイス化に肯定的であると回答しているのだという。オンラインショッピングの嗜好がマーケットプレイスタイプへ移行しつつあることが明確となった一つの証だ。日本市場の潜在ニーズとMiraklのサービスの親和性は高く、BtoC市場でのシェア拡大が今後も見込まれる。

BtoBマーケットでのシェア拡大へ

 Miraklの日本進出のもう1つの狙いは、新たな価値の提供によるBtoB市場のシェア獲得と考えられる。冒頭で紹介した経済産業省の報告書によると、日本国内のBtoB市場規模は465兆円余りと、消費者向け市場の8倍を超える一大マーケットに成長した。日本企業のEC化率はまだ4割にとどまっており、企業間の流通プロセスを改善し、原材料から設備投資までシェア拡大を狙うのが日本におけるMiraklのもう1つの戦略と言えるのかもしれない。実際にニトリ、TOYOTA Material & Handling、JR西日本、アイリスプラザなど、国内各社が既にサービスを導入している。

AI技術に投資、ECの先駆者へ

 2025年3月、Mirakl本社は2024年度の業績を発表した。同報告によると年間経常収益は前年比で15%増加。ドロップシップを含むマーケットプレイスの取扱高は前年比30%増加している。今後はAI投資を前年比100%以上へ増額するなど成長を加速していく見込みだ。Mirakl独自の生成AI技術を投入し、AIベースのマルチソリューションを開発するなど、さらに事業モデルを進化させていくことが期待される。マーケットプレイスの先駆者から、AI時代のEC先駆者へ。Miraklが辿る進化に今後も注目していきたい。

Miraklの共同創業者、フィリップ・コロット氏(写真左)とエイドリアン・ヌッセンバウム氏(写真右)。

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