2024-05-31
メタバースの未来と社会価値
リアルな仮想空間「メタバース」
総務省の令和5年版情報通信白書によると、2021年に700億円余りだった国内のメタバース市場は、2022年には約1,800億円へと成長した。世界全体では2022年の8兆円台から、2030年には約124兆円まで拡大すると予想されている。一般企業から自治体まで、世界各地で少しずつ導入が進むメタバース。教育や医療など、多岐にわたる分野で新たな活用も始まっている。
そんな中、2021年にGAFAの一角、Facebookが社名をMetaへと変更した出来事は記憶に新しい。ここ数年で注目が集まるメタバースとは、「複数のユーザーが同時に参加できる」「没入感が高く、現実に近い体験が可能」といった特徴を持つ三次元の仮想空間だ。従来はその定義を現実にはないVR(仮想現実)とされてきたメタバースだが、近年は現実世界に3Dオブジェクトなどの仮想世界を重ね合わせたAR(拡張現実)も含まれつつあり、Metaも現実世界の3Dマップである「LiveMaps」の構築に力を入れている。
メタバース空間でユーザーは物理的・時間的な環境に制約されず、コミュニケーションやさまざまな活動を行うことが可能となる。他ユーザーとのコミュニケーションのほか、オンラインショッピング、イベント、ゲーム・エンタメといった各種サービスに参加でき、NFTなどデジタル技術を活用したグッズの入手も可能だ。
新たな顧客との接点を獲得
国内では既に、さまざまな企業がメタバースの活用を始めている。メタバースを利用する企業側の第一のメリットは、新たなビジネスの創出や顧客との接点の獲得だろう。たとえば三越伊勢丹ホールディングスでは、2021年からメタバースを活用したスマートフォンアプリの運用を開始。アプリ内の仮想店舗で買い物をすると、連携したオンラインストアで買い物ができるといった試みを始めた。国内でセレクトショップを展開するBEAMSは、世界最大のバーチャルイベント「バーチャルマーケット」に度々出展。VR空間への来訪者が実店舗を訪れ、リアル店舗の来店者がVR空間に訪れるなど、ネットとリアルの融合を実現している。
ユーザーが参加しやすいエンタメ
音楽などエンタテインメント業界も視聴者が参加しやすいバーチャル空間とは相性がいい。株式会社VARKはバーチャルライブを楽しめるメタバース「VARK(バーク)」を提供し、VRデバイスが無くてもライブを楽しめる手軽さを売りに好評を博している。阪急阪神ホールディングス株式会社はメタバース空間内に大阪・梅田の街を再現。オンライン音楽祭「JM梅田ミュージックフェス(β)」を開催したことで注目を集めた。また、エイベックス・テクノロジーズ株式会社は世界最大級のブロックチェーンゲームプラットフォーム「The Sandbox」内にテーマパーク「エイベックスランド」をオープン。サイト内で販売したエイベックス関連のN F Tアイテムは1時間で完売するなど好評を博している。
BtoBへの活用も進む
海外に目を転じると、メタバースはAmazonをはじめとした小売業界からグッチやルイ・ヴィトンといった高級ブランドまで、幅広い業界で導入が進んでいる。海外の事例では、顧客サービスの提供だけではなく、商品・サービスの向上や業務効率の改善への活用が目を引く。従業員のトレーニングプログラムを行うウォルマート、倉庫オペレーションを改善するAmazonなど、メタバースは業務改善にも大きな役割を果たしているのだ。大手半導体メーカーNVIDIAが提供するメタバース構築プラットフォーム「NVIDIA Omniverse」は、BMW、英国原子力公社、Siemens Energyなど世界各地の工場の効率化に利用されるなど、海外ではメタバースのBtoBへの活用も増えているという。
教育・医療への新たな活用も
2023年、東京都の江戸川市役所は「メタバース市役所」の実証実験を開始した。江戸川区では「来庁不要の区役所」を目指しており、高齢者や障がい者、引きこもりといった区民も利用しやすい環境を構築している。もちろん国政においてもメタバースの活用は推進され始めており、文部科学省では教育へのメタバース実装を視野に入れ、2023年に通信制高校N/S高での実証実験を始めたところ。生徒は授業のほか、体育祭や修学旅行、面接など多彩なプログラムを仮想現実内で体験し、学習の場がより広がったと言われている。