2022-12-12

LVMHグループの全貌と野望。

アパレル業界でハイブランドラインを多数擁する複合企業、LVMH モエ・ヘネシー・ルイ・ヴィトン(以下、L V M H)。ルイ・ヴィトン、ヘネシーをはじめとするグループ企業は75社に上り、2020年のティファニー社買収も記憶に新しい。その手腕を振るうCEOベルナール・アルノー氏は70歳を超えた今も現役を続け、2021年にはコロナ禍から低迷していた業績を見事に回復してみせた。更なる飛躍を目指すLVMHグループの全貌に触れてみたい。

ハイブランド界のコングロマリット

LVMH は、複数の企業から成るコングロマリットだ。2022年現在、75社の企業から構成されており、傘下にはルイ・ヴィトン、セリーヌ、ケンゾーなどのファッションブランド、タグ・ホイヤー、フレットなどの時計・ジュエリーブランド、クリスチャン・ディオール、ラフラシェールなどの化粧品・香水ブランド、ドン・ペリニヨン、モエ・エ・シャンドンなどのワイン・スピリッツブランドのほか、DFSやマイアミ・クルーズライン・サービシズなど小売り部門の名ブランドを擁している。

LVMHの軌跡は、1987年のモエ・へネシー社とルイ・ヴィトン社の合併により始まった。1989年には、クリスチャン・ディオールの大株主であったベルナール・アルノー氏がグループの株を取得し経営に参加。その後、経営権を手に会長へと就任した。さまざまな業界を傘下におさめ、LVMHグループを一代で築きあげてきたのである。グループは主に「ファッション & レザーグッズ」「ワイン & スピリッツ」「ウォッチ & ジュエリー」「香水 & コスメティクス」「セレクティブ・リテーリング」の5つの部門で構成され、「ファッション & レザーグッズ」が最も大きな収益源となっている。

新たな才能の発掘や外部との連携も

「グループのメゾンの一つひとつが、最高基準のレベルを維持し、新しい挑戦を次々と課しながらそのレベルをさらに高めていけるかどうかは、私たち自身にかかっています」。
これはベルナール・アルノー氏が掲げるグループの長期的なビジョンだ。そこに紐づくように掲げられた4つの企業理念「創造的であり革新的である」「卓越性を提案する」「起業家精神を育む」「ポジティブなインパクトをもたらす取り組み」は、LVMHの中枢に根付き、グループが目指す卓越性を推進する原動力となっている。

LVMHの傘下にはルィ・ヴィトンなど老舗企業も少なくない。「卓越性」の背景には、熟練した職人たちの創造力と技術が裏付けとなり、長い伝統が培った経験を理念へと組み込みながら、それらを大切に育んできた歴史がある。

また、理念の「創造的」「革新的」という言葉にある通り、未来の才能への支援にも力を注いできたLVMH。若手ファッションデザイナーの育成・支援を目的として「LVMHプライズ」を創設し、毎年優れたデザイナーを表彰するとともに、専門家によるサポートを行なっていくことで国際レベルでの育成を行ってきた。

そのほか、外部トップとの連携や交渉にも余念がない。トニー・ブレア英前首相へのアドバイサー就任の打診や、ミハイル・ゴルバチョフ元ソ連大統領のルイ・ヴィトンの広告への起用を行ったことも大きな話題となった。2017年には、アメリカのトランプ大統領と事業拡大についての会談を実施。日本でも2022年5月、松野博一官房長官と会談を行い、LVMH側から日本のファッション・アート業界との連携強化を図り、経産省側からは海外需要の獲得支援などの連携を強めてきた。

コロナ禍においても堅調な業績x

2022年、LVMHの取締役会はCEOの年齢制限を80歳まで延長する議事を81.6%の賛成多数で可決した。それまでLVMHの内規ではCEOの年齢は75歳までと定められていたが、それをさらに5年延長した形である。これにより、現CEOのベルナール・アルノー氏は80歳までの続投を視野に入れ、更なる成長に向けて舵を切ることとなった。

2019年に過去最高を記録したLVMHの売上高・純利益は、2020年に減収減益となり、2021年で一転、売上高は8兆円を突破している。コロナ禍前と比べても20%の増収を達成している結果だ。更に2022年上半期(1~6月期)決算においても、売上高が前年同期比28.1%増の367億2900万ユーロ(約4兆9584億円)、純利益は同23.2%増の65億3200ユーロ(約8818億円)と堅調に推移している。

グループの力を結集し、次の時代へ

LVMHはコロナ禍においても事業拡大の動きを緩めなかったことは、前述した通り。2020年のティファニーを皮切りに、2021年にはドイツの靴ブランド・ビルケンシュトックやオフ-ホワイトなどの買収を行ったほか、さまざまな企業への出資額を引き上げている。2022年にはLVMH系列の投資会社がヘアエクステンションブランド「ベラミ」を買収し、新たなファッションカテゴリーにも進出した。ベルナール・アルノー氏は2022年のLVMH取締役会の中で、「高級品は四半期ごとの競争ではなく、長期的な戦いであり、ファミリーによって運営されるのが最善である」と強調し、改めてグループの進むべき方向性を示している。今後もLVMHはコングロマリットとしてのスケールメリットを活用しながらグループの力を結集し、その勢力を確固たるものとしていくに違いない。

TEXT BY Kenji Ishihara EDIT BY Go Watarai

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