2024-11-30
AIがもたらす産業と社会の変革。
日本における生成AIの利用率は他国と比較して著しく低いと言われている。一方で、人々の間にAI活用の潜在的なニーズがあることも明確になってきた。AIとともに暮らす社会はこれからどうあるべきだろうか。期待とともに不安も尽きないが、AIがもたらす産業と社会の変革は、すぐそこまで来ている。

国内外に広がるAI活用
総務省が発表した情報通信白書の中で、デジタルテクノロジー利用の一環として「生成AI」利用に関する調査を紹介している。個人への生成AIを使った経験についての質問に対し、使用経験があると回答した割合は、アメリカや英国などの欧米諸国や中国が3割から6割に達した。一方、日本では約9%と個人での利用率はまだ低いとされている。
また、企業を対象とした「今後の生成AIの活用方針」について尋ねる設問では、諸外国では「何らかの形で活用を考えている」との回答が8割から9割に達しており、積極的な活用姿勢が見られた。実際、米国やドイツ、中国の企業では試用レベルまでを含めると、約9割の企業が生成AIを業務に活用している。ただし、日本の企業においても4割以上の企業が生成AIの活用を視野に入れており、白書の内容からは、潜在ニーズが垣間見えることがわかる。
AIの進化と社会への影響
1950年代に開始されたAIの研究は、「推論・探索」「専門分野での活用」「機械学習」と、これまで3度の開発ブームを経てきた。2020年代を迎えると生成AIが急速に進化を遂げ、AI開発は第4次の開発ブームを迎えている。2023年にChatGPTを始めとした生成A Iサービスが話題となり、利用者数が急激の伸びたのは周知の通りである。
AIは人間より高速で正確に情報を処理し、短時間で膨大な量のデータを分析することができる。ロボットなど各種機器の制御から、音声認識や画像認識、言葉の理解や異言語の翻訳といった言語処理までその利用範囲は広い。
製造業では生産ラインの自動化や品質検査、医療分野の治療計画や診断のサポートに利用されているほか、金融分野のリスク管理や不正検知、サービス業の接客対応といった分野にも活用が進み、国内外で少しずつ産業の中にAI技術が浸透しつつある。
AI活用のリスク
進化する技術の一方で、AIの活用は課題も少なくない。個人情報の取り扱いが不透明で不適切な利用など、プライバシーの問題やA Iサービス運用時のデータ混入や外部からのサイバー攻撃、データ漏洩や棄損といったセキュリティ面の問題、不適切な判断による自動運転などの事故といったリスク、AI判断のブラックボックス化も課題として挙げられてきた。生成AIの登場後は、新たなリスクも顕在化している。事実と異なる回答が提示される「ハルシネーション」、著作権や知的財産権の侵害、ディープフェイクなどによる偽情報などだ。
これらの課題に対し総務省・経済産業省は、2024年4月に「AI事業者ガイドライン」を策定し、AI技術開発者や事業者への注意喚起を開始。人権や多様性、公正公平など共通の指針を定め、開発者・提供者・利用者への啓発活動を活発化している。

AIの進化と市場規模
今後も製造・医療・サービスなど生成AIの利用は拡大し、その裾野は広がると想定される。各産業のみならず、普及は家庭へも及ぶと考えられるだろう。産業における「ロボティクス」、モビリティはじめとする「自動運転技術」、デジタルツインやメタバースなどの「仮想空間」といった分野の更なるテクノロジー進化を期待する声も多い。その規模は2023年の約180億ドルから増加を続け、2027年には1200憶ドルに達すると予想されている。
人とAIの「働き方改革」
AIの進化とともに語られてきたのが、「AIは人間の仕事を奪う」という論調だ。しかし現実はどうだろうか。スマートシティの建築や自動運転バスの運用など、社会でのAIの実装が進む中、人との働き方の模索も始まっている。ウォルマート傘下のスーパーマーケット「サムズクラブ」が導入した床磨きロボットはAIの在庫スキャナーを搭載。全ての通路を歩いて在庫をチェックする従業員の仕事をAIが担うようになり、従業員の負担軽減が期待されているところだ。
イスラエルの顧客サービス支援大手「ナイス」が提供するAI支援システム「Enlighten Copilot(エンライテン・コーパイロット)」は、コールセンタースタッフの対応時にAIが人間に接客方法のアドバイスを行う。顧客の感情分析や言葉の真偽を見分け、適切な対応方法をアドバイスする機能を備えており、こちらのシステムも人間とAIが協力して業務を進める画期的な取り組み事例となっている。ある時は同僚となり時には上司となる、そんなAIと人間の協業が形になりつつあるということだ。
協働、共生する社会
