2025-5-31
北米マーケットに根付くレクサスの上質。
トヨタの高級モデル、レクサスの売り上げが好調だ。2024年度は主力マーケットである北米での売り上げが前年同月の実績を順調に上回っており、2022年度に半導体不足などで一旦落ち込んだ売り上げも翌年には順調に回復し、北米市場での根強い人気を実証する形となった。その背景には、これまでトヨタが最高品質の車を目指し積み上げてきた技術やこだわりがあるからこそ。レクサスが目指す上質の真髄に迫ってみたい。
北米向け新型車プロジェクト
2024年、トヨタ・レクサスの全世界販売実績は85万台以上を記録した。前年比106%を超える過去最高の記録である。その4割以上に及ぶ約38万台は、北米での売り上げが占めるという。
遡ること今から30年以上前、レクサスの開発は米国トヨタ副社長兼COOだったノーマン・リーン氏が、本社上層部にあてたメッセージから始まったとされる。当時トヨタ車のラインナップにはユーザーが上級車に移行する際に受け皿となるモデルがなく、他社との競争に苦戦していたことが発端だ。「偉大なものが必要です」というリーン氏のメッセージに豊田英二社長(当時)は新モデルの開発を決断。1984年から新たな高級車開発プロジェクトをスタートしたのである。
開発を支えた2つの思想
北米向け新車開発における基本コンセプトは、「世界トップレベルのハイパフォーマンス・ラグジュアリーカーの創造」だ。目指したのは世界最高レベルの走行性能と、快適性や燃費など相反する性能の両立なのだという。開発目標には”エレガントなスタイルや機能性を併せ持つ内装“といった、上質感ある躯体づくりも盛り込まれた。
プロジェクトカー完成のためにチームが共有したのは、矛盾する要素を共存させる「Yetの思想」と問題を根本まで遡り解決する「源流対策」という2つの考えだという。ファーストモデルの制作は慎重に進められ、製作したクレイモデルは約50台、試作車は約450台、走行テストは350万km余りにも及んだとされる。
そして開発着手から約6年。プロジェクトチームの妥協を許さない姿勢はレクサス初代「LS400」として結実したのである。
販売やサービスの「上質」も目指す
レクサスの販売に際し、トヨタは販売やサービスというソフト面の向上も目指したことでも知られる。当時、北米における自動車販売はホスピタリティ精神が現在ほど根付いていなかったこともその理由の一つであるという。そこで、「お客様に十分満足いただけるよう誠心誠意コミットする」など、「おもてなしの心」を明文化した「レクサス憲章」を制定。販売体制の整備を行っている。200店を目標に開始した販売店募集には、約1,600店からの応募があり、当時から高い関心度を集めている。
発売開始時、全米で展開した宣伝のキャッチコピーは「完全への飽くなき追求」。そしてサービス開始の翌年には、レクサス販売店が顧客満足度調査でトップとなり、サービスの実力を実証したのである。
自動車業界に与えた衝撃
LS400は当時世界最高となる速度250kmというハイパフォーマンスと高い静粛性を両立。販売サービスとともに高級車ブランドとして加速度的に北米市場で受け入れられていくようになった。その登場はメルセデスベンツやBMW、ロールス・ロイスなど、世界の名だたる自動車メーカーの車づくりにも影響を与えたと言われている。
その後もレクサスは他とは一線を画する車づくりを進め、高級オンロードSUVの先駆けとなった「RX」、2シータースポーツ「LFA」など、今なお語り継がれるモデルは数多い。また、2005年には高級クロスオーバーSUVとして世界初のハイブリッド車「RX400h」を発売し、電動化への舵を切った。2024年には電動車両の売り上げが全体の52%を占めるなど、EV化の北米における関心も高い。
受け継がれる思想と挑戦
愛知県の「トヨタ博物館」には、「LS」や「RX」などレクサスの歴史を伝えるモデルが展示されている。ブランドのファーストモデルとなったLSの内装にはレザーやウッドパネルがふんだんに用いられており、制作チームの思いが見えるような上質なインテリアは色あせることはない。レクサスに追求し続けてきたのはまさに、「お客様が笑顔になるクルマづくり」だ。初代LSの開発で共有した「Yetの思想」は、現在もレクサスの開発陣にとってデザインや設計における指針になっているという。妥協なきその姿勢から生まれる上質な高級車は、これからも人々を熱狂させ、飽くなき挑戦を続けていくに違いない。