2023-12-22

世界遺産で足るを知る。【イタリア マテーラ洞窟住居】

 イタリア南部バジリカータ州の都市マテーラには、世界的建造物がある。旧市街にある「サッソ」と呼ばれる洞窟住居群だ。グラヴィーナ渓谷の石灰石でできた斜面を削り、築かれた洞窟の数は計3,000カ所以上。岩肌を何層にもわたり埋め尽くすその造形は、見る者の心を揺さぶるスケール感がある。長い歴史を誇るサッソは歴史的価値も高く、世界遺産として認定された。世界各地から観光客が訪れ、人気を集めるマテーラ洞窟住居と周辺エリア。その魅力を語るには、まずは同地域の歴史を紐解いていく必要があるだろう。

先史時代から人々が居住

 マテーラの歴史は先史時代まで遡る。紀元前数千年前の旧石器時代には、最初の居住地が築かれている。その後、8世紀になると修道士達が定住を開始。岩肌を切り抜き、多くの住居や礼拝堂を作り上げたのだった。礼拝堂の内部には宗教画が描かれるなど、数々の装飾も施されている。
 また、岩肌の頂上に設けられた貯水池から町までは、導水路で水を供給するなど、生活インフラも整備。その甲斐もありマテーラは15世紀まで文明発展を続けている。州都となった最盛期には2万人もの人々が暮らしたという。
 19世紀に入ると州都の移転とともに町は徐々に衰退。しかし近年、洞窟群の文化的・芸術的な価値が見直されるようになり、近隣諸国や世界各国からの評価を高めていった。1993年には歴史的な価値が公に認められ、「マテーラの洞窟住居と岩窟教会公園」としてユネスコの世界遺産に登録されたのである。

古と新、人と自然が共存する

 世界遺産マテーラ洞窟住居の上には、新たな居住エリアである「チビタ地区」が作られた。チビタの南は「サッソ・カヴェオーソ地区」、北は「サッソ・バリサーノ地区」と呼ばれ、広大なエリアを二分している。洞窟住居で構成されるサッソ カヴェオーソに対し、サッソ・バリサーノにはより複雑な建築技術で建てられた家々が立ち並び、チビタ地区は宗教・商業地区としての役割を担ってきた。階段、路地や狭い小道、テラスのほか、アーチや回廊、鐘楼なども新たに作られ、これら岩から削り出された町は別名、「チッタ ディ サッシ」(石の都市)とも呼ばれている。
 洞窟住居と新しい街並み、新・旧市街が共生する様は、俯瞰で眺めると一つの壮大な景観だ。古と新、人と自然が共存する姿がそこにあり、訪れるものたちをたちまち魅了する。

宗教・文化施設も充実

 岩を切り抜き作られた洞窟住居サッソは現在も、住民により少しずつ改修が続けられている。ダイニングを擁するホテルが提供されるなど、サッソの活用も進んでいるところだ。また、マテーラ洞窟住居の周辺には、飲食店のほか、大聖堂や教会といった宗教関連の建築物、文化関連の施設も多い。リドラ考古学博物館、国立中世近代美術館、MUSMAなどの博物館をはじめ、カーサ ディ オルテガ、カーサ ノハ、カーサ カヴァなど、文化イベントが開催されるスポットも点在する。2019年にはEU加盟国の各種文化行事を展開する都市「欧州文化首都」にも選ばれたことでも注目を集めた。
 そのほか、マテーラとその周辺では1950年代から現在に至るまで、「キリストの受難」「ダビデ王」「ワンダーウーマン」「王の三銃士」など、およそ60本にも及ぶ映画のロケが行われている。フォトジェニックな場所として評価が高いこのエリアの景観は、多くの人々に親しまれ、期待を裏切らない感動を与え続けきた証でもある。
 そんなマテーラの平均気温は、19℃から31℃と、比較的温暖な気候だ。日本からのアクセスはローマ・ナポリを経由後、鉄道で6時間ほど。ナポリからは直行バスも運行している。太古の住民達に思いを馳せながら、何度でも訪れてみたくなる魅惑の世界遺産だ。

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